Dentalism 26号
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リーへの改造が難しいのですが、ホテルへ出店している料亭はこうした改装も不要なので、そうした料亭との協力も進めています。 このように沢山の人との素敵な縁でいろいろなプロジェクトが花開いてきましたが、和菓子プロジェクトでは病院の会議室では本音が出ないので、和菓子屋さん行きつけの小料理屋さんで話をしようと訪れたところ、そこの女将さんが僕の中学校の後輩で(しかも神奈川県)、その女将さんが新たなプロジェクトの要になるような人を紹介してくれたり。まるで「わらしべ長者」みたいな話でしょ(笑)――多くの料亭で嚥下食が味わえるようになる日が来るかも知れないのですね。荒金 ただし、料亭の人は要介護の人の重症度とそれに応じた介護食の選定は判断できません。また、嚥下食を開発する際に一番重要なのは物性の安定性です。時間の経過や温度や湿度の変化、移動(振動)などを経て、物性の安定性が維持でき京焼・清水焼、 京漆器による介護食器と京都の料亭で調理した介護食の松花堂弁当21 Dentalism 26 SPRING 2017が作った介護食の試食をしていただいたんです。参加された多くの方々に喜んでいただきました。「介護食というのは、あまり美味しくないし、みんなと違うし、何だか暗い食事だったけれど、こんな料理を、外で食べられるなんて思ってもみなかった」と涙ながらに語られる姿は、ご協力いただいた料理人さんの気持ちに火をつけてくれました。ある料亭が、店舗での介護食の提供について「ちょっと考えてみます」と言って下さり、介護食の提供の予約を受け付けてくれるようになりました。京都の料亭の多くは伝統的な造りからバリアフるかどうかを検証しなければなりません。その点、和菓子などは相当進んでいますが、まだ介護食は安定していません。味は良くても物性の安定性という点が今後の課題です。このように、京料理と和菓子は伝統職人の手で市場に登場しようとしていますが、安全性を確保するには医療・介護職による地域での支援が必要です。そこで2016年4月に、食の支援の相談窓口を医師会の中に置くことになりました。地域の医療支援と食支援を繋げていけるようにしていければと考えています。――伝統工芸産業を巻き込んで介護食器が作れたというのは、やはり京都が特別な街だから実現したのでしょうか。荒金 そんなことはないです。茨城県笠間市では地域の歯科医師会が中心となり笠間焼での介護食器に取り組んでいます。それを知って京焼・清水焼、京漆器でもやって欲しいとあらゆる方面へお願いしたんですから。介護食器って、機能を優先するあまり特異な形状であるものが多いのですが、そういうものではなく、機能性を保ちながらも、僕らが使っても格好良くて、違和感のない、ギリギリのところを追求しようと開発しました。 嚥下食はゼリー状のものが多いので、つるっと器の外に飛び出てしまうのを、どう止めるかが課題でした。そこで、平皿や粥椀には返しを付け、四角い器だと隅がすくえないので、スプーンの形状に合わせて八角形の器を作ったりしました。最初は型がないので3Dプリンターで作りました。ロクロなどを使用した職人による手作業を必要とするので大量生産はできませんが、京都はこうした伝統職人が多い街だからこそ可能であったかと思います。 職人さんたちにも、いい刺激になったようです。今までは、美しい食器を作ることを心掛けていたそうですが、私たちとの情報交換の中で使い手の視点を初めて考えるようになったとおっしゃられていました。椀から食事が外に飛び出ないように淵のそばに少し掘り込みを入れて「返し」を作るなど、ちょっとしたことをさりげなく盛り込みました。実際に作ってみると、外国人や僕たちが使っても便利なものが出来上がったりして。制作には通常より時間がかかる分、価格も高くなりますし、介護食器としてはどうなんだと思うかもしれないけれど、自分たちが要介護になった際に、既存のものを使うのかと考えると、なんとなく寂しくなるというか、嫌だなぁと思いません? 嚥下食だってそう。自分たちもいずれこんな嚥下調整食を食べるようになるのかと思うと、何とかしよう、何とかしたいと思うでしょう?(笑) お医者さんって、日頃、病んだ人を診ているわけですが、患者さんの生活を豊かにすることまでなかなか気がまわりません。ともすると、医療というのは患者さんの生活を制限することが仕事になってしまうこともある。でも、衣食住の支援をすべて医療側に持ってきてしまうと、介護食は病人食、治療食になってしまう。年をとり障害が生じることとは、ある意味、生理現象です。医療の枠にとどまらず多くの人たちとともに、もっと生活の支援をしていかなければならないのでしょうね。漆塗りの手彫りスプーン

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