Dentalism 26号
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注目の歯科医師インタビュー――研修医や若い歯科医師の指導や育成、教育にも力を注がれているようですが、学ぶ場は多くても、卒業後、何をどう学んでいけばいいのかわからず、悩んでいる人も多いように思いますが。松本 講習会迷子は多いですね。実際、今は多くを学ばなければならないですしね。でも勉強する気はあっても、与えられることが普通だと思っていたり、損したくないと思っていたりする人も多い。 例えば、山ほどある咬合理論のどれが一番正しいのかとよく尋ねられるけれど、世の中に認められ、講演にまで至っているものは、たぶん全部正しい。正しくなければ残っていない。どの患者にどの咬合を使って治療するかが大切なのです。勉強するのは苦しいとかつまんないって思いがちだけど、実はそうじゃないんだよ、ということを教えるために、僕はコツだけを教える「臨床のお宝箱」という講演会もやっています。誤解を恐れずに言えば、最初は理論は覚えなくていい。まずは「出来るんだ!」と思わなければ興味を持ってもらえない。AIDMAのA(attention)気づきもないのに、興味や欲求、行動には結びつかないですよ。そこで興味がわいて、実際に悩んだら理論を勉強しに来ればいい、と思っています。――代表を務めているGDS(グローバル・デンタル・システム)で大切にされていることは?松本 歯科医師になったのなら、経営ができなければ、いい治療が患者さんに提供できない、患者さんが来てくれなければ、与えたい治療もできない、患者さんを幸せにできない。それも確かに大事だけれど、そこに〈良心〉が伴っているのかがもっと大切です。 治療をどうするのかという技術も大切ですが、物事をどう捉え、どう判断するのか、その判断の基準となる哲学や思想は大丈夫か。GDSは、一挙一動に理由があることを重視しています。――週末は講演で各地をまわり、平日は診療しながらも、医院での研修や見学も積極的に受け入れていらっしゃるとか?松本 できるだけ受け入れるようにしています。自分自身、何をやりたいのかを自問したときGPとして全般的に歯科治療に携りたい、GPのトップを目指して行きたいと思いました。しかし、自分一人で治せる患者さんは、たかだか知れています。スタッフや後人と共有していけば、もっと歯科に貢献できるかも知れない。 僕は患者さんを教科書に、診療所を実習所として、すべてを患者さんに教えていただきました。そのおかげで、すべての治療について説明ができます。一挙手一投足のすべてに、治療のすべてに根拠があるから全部説明できるんです。僕は歯医者バカですが、バカなりにお返ししたいと考えています。――これからの歯科医療に必要なことについて、どのようにお考えですか。松本 日本は今後ますます認知症が増えていきますが、そうなっちゃうと義歯も作らせてもらえなくなる。じゃあ何が大切かというと、認知症になっているか、なっていないか、判断がつかないような段階からのアプローチです。認知症は軽いところから始まり、いきなり重くはならないですから。でもお医者さんは病気になってから行くところですから、お医者さんでは事前チェックはできない。 一方で、歯医者さんは健康なときに行く場所。だから、僕たちは何ができるかというと脳波測定や血液検査です。実は、血液検査は医者ではなく、歯医者で行うことが需要だと思っています。確定診断は医科にお任せするにしても、スクリーニングは歯科でもできる。血液検査などのデータをみて、ひっかかる数値が出ていれば、医科の受診を促すこともできる。病気を未然に防ぐこともできる。 全部床義歯の人が寝たきりになりやすいことは知られていますが、それは食べられなくなって、肉やたんぱく質を摂取しないとアルブミンが足りなくなって筋力が衰えて歩けなくなるということ。とりあえず噛める義歯を装着して、食べられるようになると、それらが補完され、歩けるようになる。 3年ほど前から言われている「フ9 Dentalism 26 SPRING 2017Prole 松本勝利(まつもと・かつとし)1963年広島県出身。1987年明海大学歯学部卒業後、勤務医を経て1989年医療法人慈愛恵真会あらかい歯科医院(福島県南会津町)開業。1998年GDS(グローバル・デンタル・システム)代表2006年dTiワールドメンバー2006年日本顎咬合学会認定医2008年明海大学歯学部 生涯研修担当講師2013年神奈川歯科大学 咬合機能回復補綴医学講座 有床義歯補綴学分野 非常勤講師日本審美歯科協会会員あらかい歯科医院福島県南会津郡南会津町関本下休場729‐1蘂0241-66-2580レイル」の入口は、口腔ではないかと思います。ではオーラルフレイルは誰が担当するのかといえば、それは僕たち歯科ですよ。食べられるようになれば、意欲がでてくる。そうなったら次の治療ステップにかかればいい。 「温故知新」。古きをたずねて新しきを知る。先人たちの思想や学問を知ることなくして、新しいものは積み重なっていかない。これからの歯科のキーワードを尋ねた際に、迷い無くそう答えて下さった松本先生。豪快で大らか、感性の人に見えて、実は極めて緻密で論理的。物事を俯瞰し、正しい方向を明晰に見通すその力で、これからも、未来ある歯科医師たちに多くの影響を与えてくれるに違いありません。

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