Dentalism 23号
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21 でも学問は間違いなく進化しています。少なくとも僕が習った時代の糖尿病と、今の糖尿病では全然違う。僕は学会などが、もっと最新の情報を臨床家や国民にフィードバックしないといけないと思うのですが、それも出来ていない。 しかも、日本の糖尿病患者は予備軍も含めると2200万人以上いて、この50年で50倍近くに増えています。誰が悪いかって、糖尿病学会が悪い。国民に詫びろ! という話ですよ(笑) でも糖尿病のこと然り、お口のこと然り、本当のことを誰も言わない。じゃあ俺が言うしかないと思い開業したんです。大学では「予防」はできないですしね。――医療費の増大も深刻ですし、「予防」への取り組みは、今後、もっと注目されるでしょうね。西田 患者を減らしてどうすると言う人もいますが、患者は絶対にいなくならない。予防により全体でみると患者が減ったとしても、予防ができる医者のところに患者は集まりますよ。全国に糖尿病専門医は5000人近くいますが、そのほとんどは病気が発症した後の治療しかしていません。でも糖尿病専門医が見ているのは海面の上の氷山の一角。 それでは海面の下に隠れた巨大な部分には誰がアプローチするのか。 残念ながら患者は発病するまで病院には来ませんから、糖尿病専門医はできない。でもそういう人たちの多くは、歯医者さんには行っています。歯医者さんで血糖を計り、早目に気づいてあげれば、手を打てると思うのです。――歯科医院で血糖値を計ることは、まだ一般的ではないと思うのですが。西田 そうなんです。歯科では血糖値を計らない、計れない歯医者さんがほとんど。僕は愕然としました。歯科には高齢の患者さんも多いし、糖尿病患者も多いはずです。血糖も知らずに歯を抜いたりインプラントを入れたりすれば、そりゃあ事故は起きますよ。血糖値が300とか400の人の歯を抜けば、感染症を併発しない方が不思議です。 愛媛県では愛媛大学と愛媛県歯科医師会で「愛媛Dental Diabetes研究会」を設立して、歯科医院で血糖を計る共同臨床研究を実施しました。血糖値を計っている歯科医院はまだごく一部ですが、「愛媛モデル」は全国からも注目を集めています。――熱い視線を注ぐからこそ見えてくる歯科の問題点や課題点もあると思うのですが。西田 講演に出掛けるようになってから、行く先々に保険証を持参し、知り合った歯科医院で診ていただくことがあります。歯科衛生士さんによってアプローチや手つきが違っていたりしてとても勉強になるのですが、その一方で、バキュームの位置ひとつをとっても千差万別なことを疑問に思うわけです。なぜ全国で統一した手技がないのか、教育されていないのか。唾がたまるというのは、患者さんにとって相当なストレスだと思うのですが、それに対する対処法がこんなに違うというのは問題だと思うし、内科の世界では考えられない。 また、内科医は大学卒業後は大学病院や研修病院など、大きな病院で数年は自動的に研修を受け、多くの上司や先輩から徹底的に教わる期間がある。医者の人数も多いから色々なスタイルから学べるけれど、歯科にはそのような土壌が乏しいように見える。特殊だなと思います。――『デンタリズム』を通して、全国の歯科関係者に改めて伝えておきたいことは?西田 現在、日本の糖尿病患者は2200万人ですが、歯周病患者は8000万人と聞いています。糖尿病専門医はもちろん、歯科医師や歯科衛生士も、もっと反省しなければならないでしょう。糖尿病の患者さんの口を診ると、歯がぐらぐらして明らかに重度の歯周病なのに、通っている歯医者さんでは何も言われないという人もいます。そういう場合は信頼できる歯医者さんを紹介しますが、それまで良い歯医者さんとの出会いが得られなかった患者さんの腰は重くなるものです。それでも僕の言葉を信じて受診した結果、「先生の言う通りだった。あの歯医者さんは違う。思い切って本当に良かった」と喜んで下さる患者さんもいらっしゃいます。 僕が糖尿病専門医として、自信を持ってお薦めできる歯医者さんは、まだ限られているし、今後は糖尿病の先生方にも、いい歯医者さんの見つけ方を伝えていかないといけない。そういうネットワークができれば、歯医者さんにとっても、患者さんにとってもハッピーだと思っています。 歯科は本当に素晴らしいし、もっと自信を持って欲しい。社会的にも、もっとスポットライトが当たるべきだと思っています。やれ歯科医院数が多いだの、倒産するだの、ネガティブな話ばかりが聞こえてきますが、僕は「歯科が輝かなければこの国は亡びる」ぐらいに思っていますよ。 今までの「医科歯科連携」は何十年と取り組まれていますが、ことごとく失敗しているように見えます。医者が身体のことを語り、歯医者が歯のことを語るのは当たり前ですからね。でも今後は、内科医がお口の大切さを語り、歯科医が全身のことを語るような連携になっていけば「医科歯科連携」は成功していくのではないかと思います。 過去に対する反省や怒りをエネルギーに変え、反骨精神を持って糖尿病の予防に取り組み、歯科の可能性すら切り拓こうとしている糖尿病内科医、西田亙先生。今、医療現場で求められているのは、当たり前だと思われていることに疑問を投げかけ、突破していこうとする彼のような医師なのではないだろうか。歯科業界は、そうした医師たちの話を聞きもらしてはならない。

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