Dentalism No.9
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6月5日、東日本大震災の被災地岩手県釜石市のグラウンドに「カーマイシ!」の声援と何本もの大漁旗が翻りました。地元のラグビーチーム「釜石シーウェイブス」(SW)が、トップリーグのヤマハを迎えて戦う「釜石復興支援試合」を応援する地元の応援団。そのなかに、港に近い診療所と自宅を津波に流された、おいかわ歯科医院の及川陽次院長(48)の姿もありました。持ち出すことができたのは1台のケータイだけ。彼は、避難した高台から、診療所も買ったばかりの車も、3波に及ぶ大津波に呑み込まれてゆくさまを、呆然と眺めるしかありませんでした。しかし、彼は被災後すぐに動きました。自ら避難所生活を送りながら、一緒に避難した歯科衛生士の菅野さんや保健師とともに避難所を回り被災者の口腔ケアに尽力したのです。「阪神大震災の後、たくさんの人が誤嚥性肺炎で亡くなりました。口腔ケアが生死を分け、そして『噛んで食べる』ことが生きる力を生んだのです。被災者の命を守る口腔ケアを、歯科医師の私がやらないで誰がやる!という気持ちでした」。外壁を残して真っ黒いヘドロと瓦礫に埋まった医院の壁に、SWを応援する大漁旗が張り付いていました。SWの母体は、1979年から7年連続日本一に輝いた、「北の鉄人」 新日鉄釜石。選手たちも、津波で7連覇時代の先輩を失い、自ら被災しながらも、得意の力仕事で避難所や高齢の被災者を応援しました。釜石にとってSWは地元の誇りであり、復興のシンボルなのです。試合は76-5の完敗。しかし試合後のヤマハ清宮監督の「被災地をみて、選手たちひとり一人の魂に、ラグビースピリットをどう活かしていくのかがしみ込んだと思う」という言葉には、SWとそれを支える釜石市民の心意気がしっかりと重ねられています。ラグビーの精神はOne for all, All for one. 「一人はみんなのために、みんなは 一人のために」。及川氏の胸にも、同じ「北の鉄人」のスピリットが燃えています。復興は人々が元気でなければ実現できません。そして、「元気のカギ」は口腔が担っています。「1年かかっても、2年かかっても、地域のみなさんを元気にする医院を作りますからね」。医院の壁には、黒いマジックで「がんばろう釜石! また、ここで必ず診療を再開します!!」と及川氏の右上がりの文字が刻まれています。発行人/寺西秀樹 編集人/丹羽麻理発行所/株式会社 金沢倶楽部〒104-0045 東京都中央区築地4-1-12 ビュロー銀座 TEL 03-3544-5939 FAX 03-3544-5934http://www.dentalism.jp[デンタリズム]歯科業界のコミュニケーションマガジン『Dentalism(デンタリズム)』が、第9号もここに発行できますことを、取材制作にご協力いただきました皆様と、本誌をご愛読いただいております歯科医院の皆様に感謝いたします。東日本大震災から4か月。この間、多くの方々より被災地支援に関するお話を伺いましたが、ここでその一部をご紹介します。今号のスペシャル対談でもご紹介している歯科材料の通販会社(株)歯愛メディカルでは、4月24日から30日にかけて福島、宮城、岩手の東北3県の被災地をまわり、Ci会員を中心とした約80軒の歯科医院を直接訪問したといいます。そこには、自ら地震や津波の被害や、原発事故による退避指示に従いながらも、避難所での口腔ケアや歯科診療に参加し助け合っている先生やスタッフの話や、内陸部の診療所から沿岸部の避難所へ日々の診療後に1時間以上かけて通い、交代で診療やケアにあたっているという方々の話などを数多く耳にし、深く感動されたそうです。また、報道でも度々その被害の甚大さが伝えられている福島県の南相馬市では、津波によって何もかもが呑み込まれてしまった場所と、駆け上がってきた津波を止めた細い道路一本を隔てて、反対側には何事もなかったように家々が残り生活の場があるという、信じられないような光景も目の当たりにしたといいます。その道路脇には、流されてきた瓦礫に根元を埋められながらも、1本の桜の木が花を咲かせていたようです。決して負けないという、日本を象徴するかのように。普段は先生方やスタッフの方々と直接あう機会がない通販会社が、時間をかけて被災した会員歯科医院をまわったのは、ひとえに被災されたお客様をお見舞いしたい、という気持ちだったといいます。『Dentalism』もまた、被災された先生やスタッフの皆様、患者様、そのお身内の方々に対してお見舞いを申し上げますとともに、不幸にしてお亡くなりになられた方々に対しまして、深い哀悼の意を表したいと思います。■編集後記32「北の鉄人」のスピリット菊池恩恵菊池恩恵(きくち・めぐみ)1953年岩手県出身。歯科医院の経営を支援する株式会社コムネット代表。http://comnt.co.jp/左が及川院長、右が筆者。

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