Dentalism No.6
26/36

 その日、箱根は、全山、雨であった。樹々はことごとく濡れそぼり、蒼々とした濃密な色調が車の窓いっぱいに映っている。 九十九折りの急坂をのぼりながら、雨にけぶる箱根の美しさに目をみはった。 強羅温泉は、箱根に二十とも三十ともあるといわれる温泉地のひとつで、箱根湯本駅から出る登山鉄道の終点に位置し、大小二十数軒のホテル・旅館が点在する。 わけても『強羅花壇』は、高級旅館としてつとに有名で、国内の著名人はもとより、海外からの賓客も多いことで知られている。 エントランスは、ごくさりげない。強羅駅で降り、ゆるゆると坂を下ると、左手に入口があるのだが、うっかりすると見逃しかねない質素なたたずまいである。 そのぶん、ロビー階から奥へ奥へとひろがる圧倒的な空間には、初めての客は誰しもが驚くそうで、たちまちにしてその魅力にとりこまれるという按配だ。 案内していただいたスタッフによると、近年は海外からの宿泊客も連泊してくという。 「箱根というのは東京の郊外、東京のスパリゾートという感覚ないつか訪れたい場所柱廊は、強羅花壇の風景として欠かせない要素の一つ。仕切ることで逆に空間の奥行きが感じられ開放感が増す。季節や時間の移ろいとともに豊かに表情を変える。強羅花壇写真/三好和義 文/林 俊介緑深き、箱根の自然に抱かれるようにして佇み行き交う旅客の心を、優しく包み込む。24

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です